My important place【D.Gray-man】
第31章 嘘と誠
あ、でもアレンも含めて三人で夕飯食べた時も、こうして隣で食べてたっけ…。
…アレンにも隣にいてほしいな。
二人だと妙に緊張してしまう。
「いや…うん…えっと…おはよう」
「台詞と行動が一致してねぇぞ」
取り繕うように笑いながら、さり気なく距離を取る。
そんな私に形の良い眉を片方だけ潜めて、神田は小さく溜息をついた。
「月城」
「…何」
「変に構えんな」
綺麗な持ち方で箸を手にして、朝ご飯の白米を静かに口にしながら──……あれ、蕎麦じゃないの珍しい。
「お前に特別何かをして欲しい訳じゃない。お前はそのままで、俺の隣にいろ」
目線は目の前の朝食に向けたまま、その口から零れた言葉は前にも聞いたことがあるものだった。
…あの壮観な花畑の中で。初めて見た、肩を震わせて年相応な顔で笑った神田が言ってくれた言葉。
お前はそのままでいろって、優しい声で肯定してくれた。
「…うん」
なんだかその言葉はすとんと私の中に落ちて、不思議と気を楽にさせてくれた。
色々あったから緊張はしちゃったけど…神田の傍は私の落ち着く場所だった。
それは今も変わらない。
「えと…ごめんね」
「謝るなら、後でトレーニングに付き合え」
「組み手?」
「護身術磨けって言っただろ」
トレイを引いてまた元の距離に座り直していると、黒い目が私に向けられた。
ああ、そういえば前にそんなこと言われたっけ。
「うん、じゃあよろしく」
軽く笑って返す。
こうして一緒に過ごす休日も、別に今までと特別変わったことはない。
他の人達がどうかはわからないけど…きっと私と神田はこうなんだって、不思議と納得できた。
それに神田は急に態度変えて、ベタベタするようなキャラじゃないだろうし…寧ろそうなった方が戸惑う。
色んな意味で。
「にしても、神田って蕎麦以外も食べるんだね」
「当たり前だろ。蕎麦だけで生きてきたとでも思ってんのか」
「神田の体なら、不可能ではないかと」
「……」
私も求めたのは、今のままの神田。
暴君さは相変わらずだけど…きっとそこも含めて神田だから。
………ただ挨拶代わりに頭叩いてくるのは、ちょっとやめて欲しいけど。