My important place【D.Gray-man】
第31章 嘘と誠
でもそれを言えば、神田も充分そうだ。
外見も中身も惹き付けるものを持ってるけど………暴君だし。
誰が見たって暴君だし。
紛うことなき暴君だし。
「…私、決してMじゃないから」
神田のこと…その……好き、だけど。
殴られるのが嬉しい訳じゃないから。
決して、違うから。
大体あの"欲しいもの"発言を促す時も、半ば脅しだったし。
本当にもう時限爆弾かと思った。
ああいうの心臓に悪いから、もうちょっと優しく促してくれないかな。
にっこり笑って催促してくれるだけでも、大分緩和され──…うわ想像したら気持ち悪い。
「──ぃ、おい!」
ばしんっ
「痛いッ」
思わず爽やか笑顔の神田を思い浮かべてぶるりと体を震わせれば、同時に頭に慣れた衝撃が。
げ。
これって…
「何一人でぶつぶつ言ってんだよ、気持ち悪い」
恐る恐る叩かれた頭を押さえて振り返れば、其処には朝食のトレイを片手に眉を潜めた神田が立っていた。
いや、私も気持ち悪い想像してたんですよ。
貴方で。
「何度も呼んでんだろ。ボーっとしてんな」
「え? あ…そうなの。ごめん」
あれ、なんで私謝ってんの。
寧ろ挨拶代わりみたいに叩かれて、謝るべきは神田じゃないの。
「あの…じゃあせめて肩叩くとか、そっちにしてもらえません…?」
駄目元で提案してみれば、意外にもすんなりと聞いた神田は私の肩に向かって手を上げた。
「こうか」
べしんっ
「だから痛いッ」
違う!
叩く言ったけどそれ違う!
人を呼ぶ時の力加減じゃない!
それは暴力に訴える時の力加減!
「痛いから! 肩外れるから!」
「外れねぇよそんくらいで。大袈裟に言うな」
訴えても神田の表情はまるで変わらず、何処吹く風。
トレイを机に置くと、あっさり隣に腰掛けた。
………いや、うん。
なんで隣。
今までは向かい合って食べてなかったっけ…。
「……」
「なんだよ」
肩を擦りながら思わずまじまじと神田を見れば、怪訝な目で返される。
その反応は相変わらず、微塵も変わりないいつもの神田だったんだけど…近い。
距離が、なんか近い。