My important place【D.Gray-man】
第30章 想いふたつ
「…お前、変に映像記録してねぇだろうな」
ゴーレムが返事をしないことをわかってて、ベッドの上に乗るティムに問う。
さっき僅かに感じた気配はこいつだったのか。
教団の中庭での月城との出来事は、しれっとこいつに記録されてるだろうからな…。
……。
…今のうちに映像消しておくか。
「記録してませんよ」
予想外に返事はあった。
病室のドアから。
目を向ければ、団服コートのフードを目深に被ったティムの持ち主が其処にいた。
「目覚めたんですね。あれから三日間も寝てたんですよ」
「……テメェいつからいやがった」
「ついさっきです。何も見てません」
病室に踏み込みながらフードを外す。
その顔は不貞腐れたようなもので、嘘をついているようには見えなかった。
「見なくてもわかりましたから。…雪さんのあの顔を見れば」
廊下で出会いでもしたのか。
…いや。
俺に気付かれないよう気配を殺してたところを見ると、月城にも悟られないようその顔を伺ったんだろう。
「神田ってところが納得いかないけど…雪さんが笑っていられるなら、何も言いませんよ。あ、でも暴力はスルーできないので、見掛けたら怒りますけど」
結局色々言ってんじゃねぇか、それ。
「ティム」
モヤシに呼ばれたティムが、その肩に大人しく乗る。
「…オイ。そいつの中にある記録──」
「映像は消しておきます。教団で雪さんがルベリエ長官とお茶した日のことでしょ」
俺の言おうとしていることがわかったのか、言葉を遮ったモヤシが肩を竦める。
確かにその通りだったが、それよりモヤシのその言葉に俺の思考は別へと向いた。
そうだ、ティムはあの日月城とずっと一緒にいた。
ルベリエと茶を飲んでいた時も。
…もしかしたら月城がルベリエに責められていた時の記録も、ティムの中にあるかもしれない。
「……」
月城はルベリエに何を言われたのか話さなかった。
俺が聞かなかったのもあるが。
…その時のことは、まだ俺の中で気に掛かってる。
人を踏み躙るのが得意な野郎だ。
そんなルベリエに、一体何を言われたのか。