My important place【D.Gray-man】
第30章 想いふたつ
「大体、他人にんなことしたことねぇよ」
「…………嘘だ」
「…なんだその目は」
心底信じられないと言うかのような表情で、まじまじと月城が見てくる。
きっぱりと否定を口にして。
なんで嘘つかなきゃなんねぇんだよ。
こんなふうに想えた相手は、教団では誰もいなかった。
だからこんなことをした相手も…………いや一人いたな。
昔、酒で酔ったジジに無理矢理接吻させられたことがある。
……。
………嫌なこと思い出させんな気持ち悪い。
「…お前な…想像しただろ」
「は?」
思わず顔が青くなる。
ダントツで忘れたい過去だな、あれは…。
「何急に。なんか顔青いけど…ってもしかして傷口開いたっ?」
「違ぇよ」
心配そうに伺ってくる月城に首を横に降る。
もう怪我は完治してる。
いい加減この包帯も取っていいだろ。
「あ。だから駄目だって…ッ」
首の包帯に手をかければ、またもや慌てた月城に止められた。
だからお前、看護師じゃねぇだろ。
「もう怪我は完治して──」
言いかけた言葉を止める。
「……神田?」
黙り込んだ俺に、不思議そうに月城が声をかけてくる。
それには応えず視線を上げて、月城の後方に目を向けた。
……。
「……月城」
「え?」
「闘技場の事後処理が残ってんだろ。俺のことはいいから、行ってこい」
「あ………うん。じゃあお医者さんに声かけておくから。神田は包帯取ったら駄目だよ」
腕の中から解放すれば、素直に言うことを聞いた月城がベッドから下りる。
「絶対だからね」
「わかったから、早く行け」
念を押しながら桶を手に出ていく月城を見送る。
そうして一人になった病室で、一つ溜息をついた。
「……」
もう一度、ドアの向こうに目を向ける。
声はかけない。
ただ無言で圧をかけるように睨み付けていれば。
パタパタ…
僅かな羽音を立てて、そいつはドアの隙間から入り込んできた。
金色のゴーレム、ティムキャンピー。