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My important place【D.Gray-man】

第30章 想いふたつ



 他人の過去になんて興味はない。
 それは月城に対してもそうだったが…今は違う。
 野生児みたいな食生活をしていたと知った時もそうだった。
 こいつのこととなると、どうにも気にかかる自分がいる。


「…月城」


 手首と頭部を掴んでいた手を離す。
 代わりにその背中に手を回して、引き寄せた。


「…っ」


 細い体は呆気なく俺の腕の中に収まって、僅かにぴくりと肩が跳ねたのがわかった。


「当たり前だろ」


 月城が求めるからやるんじゃない。
 俺が望んだんだ。
 こいつを。


「俺の傍にいろ」


 生半可な気持ちじゃない。
 愛だの恋だの、そんなもんに興味はなかったから。

 愛なんてもんが何かもよくわからなかった昔は、そういうもんを欲した。
 それがあれば、暗く酷く息の詰まるこの世界でも生きていける気がしたから。
 エドガー博士のように、笑えるようになれるかもしれないと思ったから。


 けれど俺の生まれ出た世界は全て偽物だった。


 本当の記憶は潰されて、俺の頭から削られた。
 それを知って全てが偽物に変わった時、俺は周りに憎悪しか向けられなかった。

 唯一大事にしたいと思えた存在は、この手で切り捨てて。
 俺に残されたのは、壊れた記憶の中の"あの人"だけ。


 もう何も要らないと思った。
 記憶の中のあの人以外、俺の求めるもんはないと思った。


「わかったか」


 そんな俺の思いを変えたのが月城だ。
 中途半端な好意なら、欲したりしない。
 それだけの想いを抱えさせたんだ、傍にいなきゃ困るんだよ。


「……うん…」


 小さな頷きが耳に届いて、おずおずと俺の背中にその細い腕が回る。

 年越しのアメリカでも、あの教団での中庭でも、抱きしめたこいつの体は反応を示さなかった。
 直立不動で、自分から俺に触れようとはしなかった体。

 それが初めて求めるように抱きしめ返してくる。
 まだ遠慮がちに力の入っていない動作でも、俺の心を満たすには充分だった。

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