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My important place【D.Gray-man】

第30章 想いふたつ



「まだ夢に逃げるつもりか。もっぺん口塞ぐぞテメェ」

「っ…! だ、って…ッ」


 低い声で言えば、あたふたとその視線が泳ぐ。
 捕まえた手首から伝わる、硬直するように強張る体。


「そんなこと…っないと、思ってたから…」


 辿々しく口にしながら、その目は俺の目と合わせようとせず逸らしに逸らして。


「私…っ…」


 きゅっと唇を噛んで、何か口にしようとした言葉を呑み込む。
 また黙るつもりかと眉間に皺を寄せて言おうとすれば。


「私…」


 その固く結んだ唇を開いて、月城は"続き"を口にした。


「…神田の隣に……いても、いいのかな…」


 ……。
 ………どういう意味だそれ。

 そうは思ったもののそれ以上に、か細い声で訴えてくる月城に胸は少し締め付けられた。
 そんなふうに、居場所を求めるようなことをこいつが口にしたのは初めてだったから。


「……」


 ……嗚呼、そうか。

 バレンタインのお返しだなんてリナに言われて、何を欲しがってるか思いつかなかったのは…こいつが執着しているもんが何か、俺が知らなかったからじゃない。

 こいつ自身が、そういうことを口にしないからだ。

 あの時はまだあやふやだった思いが、はっきりとした確信に変わった。
 求めるもんがあっても、こいつはそれを口にしない。
 軽い思いは言えても、強い思いは口に出すのを躊躇する。

 そんな性格を面倒だとは思うが、不快感は浮かばなかった。





『私…嫌いなの。弱い自分が。何かに縋って、泣き続けて。自分で努力もせずに、誰かに頼り続けようとしてた』





 ゾンビ事件の最中、コムイの実験室で月城は本音を口にした。
 その言葉通りなら、周りに頼るばかりの奴だったってことだ。
 今の月城とは正反対の性格。

 そんな自分を嫌うくらいの何かがあったから、こいつは言葉を呑み込むようになったのか。
 …その原因はわかんねぇが…だからこいつは、こんなふうに不慣れな口調でしか言えないのかもしれない。

 そうなんとなく理解した。

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