My important place【D.Gray-man】
第30章 想いふたつ
「にー、」
「わっ…わかった言うから…!」
ドスの効いた声で続ければ、慌てた月城が両手で俺の口を塞いだ。
「か…神田だよ…っ!」
俯いてそのままの勢いで、その口から漏れたのははっきりとした俺の名前。
「他は…っ何もなくてもいいから…ッ」
思わず黙り込む。
必死に紡ぐ辿々しい月城のその声を、聞き逃さないように。
「神田が…っ………欲しい、…」
聞き間違いようのない、はっきりと俺を求めるその声を耳にした時。胸の奥でドクリと心臓が脈打った。
目の前の月城から目が離せなくなって、焦げ付いた想いが内側から強く胸を叩く。
「え、と…返事を期待してる訳じゃないから…っ」
逃げるように、俯いたまま月城の体が距離を取ろうとする。
それより早く、口から離れた細い手首を掴んだ。
「逃がさねぇって言っただろ」
やっとその口から言わせたんだ。
誰が逃がすかよ。
「ちゃんとくれてやるから、しっかりこっちを見てろ」
手首を掴んだまま、片手で頭部を掴む。
頭が割れるだのなんだの前に文句を言ってたから、そう力は入れずに。
「な──」
けれどその状況を月城が頭で把握する前に、行動に移した。
逃がさない為に。
頭部を引き寄せて上がった月城の視線と目が重なる。
それでも動きは止めずに、そのまま顔の距離を詰めた。
「…ん…っ」
驚き言葉を発そうとした声ごと飲み込むように、その口を俺の口で塞ぐ。
時間で言えば恐らく一瞬。
その一瞬でも唇の感触をしっかりと確かめて、顔を離した。
「……」
限界まで驚きで丸く見開いた月城の目が、間近に見える。
一瞬、沈黙した後。
「──っ…!?」
月城の顔は真っ赤に染まった。
…前も思ったがまるで林檎だな。