My important place【D.Gray-man】
第27章 夢現Ⅱ
「──はぁ…」
宿屋の廊下に設置されていたバルコニーで、深く息を零す。
澄んだ夜の空気を肺に吸い込めば、少しだけ気持ちが落ち着いた。
「……」
でも、それは少しだけ。
ざわざわと胸の奥底に浮かぶ不安は消えない。
「…本当、神田相手だと心揺れるなぁ…」
溜息を零しつつ、バルコニーの柵に両腕を乗せる。
其処から下を覗き込めば、すぐ傍にある湖が見えた。
よく見れば、あちこち水路用の道が作られている。
これ…この村の水源用の湖かな?
「……」
その湖に映る、バルコニーから覗く私の顔。
風のない空気に振動しない湖は、まるで鏡のようだった。
「というか、神田って決まった訳じゃないし…」
メイリンの言葉に思い浮かんだのは神田だったけど、絶対とは言い切れない。
そもそも占いが本当に当たるかどうかも、絶対とは言い切れない。
まるで言い訳のようだったけど、気付いたらそんなことを口にしていた。
…確か…長い黒髪の綺麗な顔した多分男性…だっけ。
……。
…………。
……………うん。
そんなエクソシスト、神田くらいしかいない。
「はぁぁ~…」
うんと頷いて、それから落胆。
女性に見間違えられる程の美形なんて、神田くらいしかいないし。
あれだけ整った美形、他に見たことないし。
長い睫に真っ黒な髪に──
「……あれ?」
そういえばもう一人いなかったっけ。
黒髪美形顔の人。
「…んん、…」
額に指先を当てて考える。
そういえば誰かいた気がする。
神田と似て、だけど癖の強い真っ黒な髪。
神田と似て、だけど更に大人っぽい切れ目。
酷く整った顔なのに、神田に比べて感情豊かな表情してたから、美形だけどイケメンなお兄さんって感じで…
「……誰だっけ」
強烈な印象を受けたはずなのに、何故か思い出せない。
「…この歳で物忘れって…」
思わず柵に項垂れて、溜息を零す。
なんだろう、何か引っ掛かる。
「ラビとかに知られたら、笑われるや…」
鏡のような湖に映った私は、深々と溜息をついて。
「──!」
見えたのは、私の背後に映る影。