My important place【D.Gray-man】
第27章 夢現Ⅱ
思わず柵を掴む手に力が入る。
鏡のような湖に映っている、確かに私の後ろから覗く白い影。
だけど振り返らない。
振り返っても其処には誰もいないことは、わかってたから。
「…っ」
にんまりと、笑った口元だけが見える。
他には目も鼻も髪の毛も何もない。
こんな情報は、どの資料や文献を探しても載っていなかった。
だけど漠然と、"それ"がなんなのか私は理解できた。
…きっと"ノア"に関する何か。
「奴って…誰なの」
問い掛けるように、ぽつりと零す。
"奴を許すな"
そう、何度も頭の中で木霊していた声。
その思いを強く感じた時、私の手はビリビリと嫌なその気配を感じ取った。
それはイノセンス。
「……」
もしかしたら…その"奴"って──
──カチ、
時計の針が重なり合うような、そんな音がした。
「そう。それは"記憶"だよ」
聞こえた声は真正面から。
「ボク達の中に宿る"ノアメモリー"」
はっとする。
見上げた先にあったのは、知らない顔。
──否。
顔は見えない。
口元から下だけが映ってる少女が、目の前にいた。
「やっと繋がったね。といっても、まだ微かに細い糸だけど」
繋がった?
困惑すると同時に、周りが真っ暗な世界だということに気付く。
前も後ろも右も左も上も下も。
全てが真っ暗、何もない世界。
「千年公、ほら早く~っ!」
千年…公?
「折角繋がったんだから、怖がっちゃダメだよぉ」
「大丈夫でス♡ 怖がってませン♡」
「ホントにぃ?」
暗い世界で映ったのは、二人の人物。
どちらも顔は見えない。
一人は、ロリータファッションのような格好をした高い声の少女。
もう一人は、口元に僅かに無精髭を生やした少しふくよかな紳士服を纏った男性。
どちらも顔は見えないけど、その姿も声も知らない人物だった。