My important place【D.Gray-man】
第25章 ノア メモリー
思わず弱音を吐いたその時だった。
「った…ッ」
水に浸かっていた足先から、ビリッと鋭い痛みが走る。
さっきまでの微弱な違和感じゃない、強い痛み。
「っ…!」
「雪っ? どうしたんさっ」
「ぅ、ううん…大丈夫…っ」
思わず屈み込む私に、焦ったラビの声が届く。
足先を押さえたまま、自分の姿が揺らぐ水の波紋の中に見えて。
そこに映ったのは、私の背後から覗く顔。
今度は振り返らなかった。
振り返ったら、またこの顔を逃してしまう気がして。
揺れる波紋の中に見えるその顔を、凝視する。
それはよく見れば顔のようで顔じゃなかった。
人としての輪郭はある。
だけど目も鼻も髪の毛も何もない。
真っ白なその輪郭に浮かんでいるのは、にんまりと笑った口元だけ。
水の中、私の背後に映った白い人。
そのにんまりと笑った口元が動いて、何か言葉を紡ぐ。
声は聞こえなかった。
でも、それが何を意味しているのか。それは漠然と理解できた。
"奴ヲ許スナ"
これは怪奇現象じゃない。
この誰とも知らない白い影は、私の中の──
バチィッ!
「つぅ…!」
水に浸かっていた手が、激しく痛む。
弾かれて思わず引っ込めれば、ビリビリと手が震えた。
何この痛み。
なんだか拒絶されているような──
「雪! マジで大丈夫さっ!?」
「……」
「雪っ?」
思わず自分の両手を凝視する。
『いたいよ…いたい…』
フラッシュバックのように一瞬脳裏に浮かんだ、幼い血だらけの自分の両手。
…知ってる。
この、拒絶される感覚。
これは──父のイノセンスに拒絶された時と同じものだ。
「…イノセンス」
「へ?」
「これ、イノセンスだ」
ビリビリとくる痛みは、この水全てからだ。
「この水自体がイノセンスなんだよっ」
「水自体…?」
咄嗟に顔を上げてラビを見る。