My important place【D.Gray-man】
第25章 ノア メモリー
漠然とだけど、それは確信に似ていた。
それなら全ての現象に納得がいく。
あの水に濡れた人形が、変に動いていたのも。
この部屋を取り囲む、壁に染み込んだ水跡の人影も。
「この水がイノセンスなら全部説明がつく!」
「でも形のないもんにイノセンスが宿るんさ?」
「わからないけど…何か源があるのかも…っ」
言えば、考えるようにラビが難しい顔をする。
「…わかった、一か八かさ」
そして徐に、鉄槌の柄をヒュンッと掌を軸に回して掲げた。
「雪、オレに掴まってろ」
「え?」
「ちぃっと荒療治だけど、炙り出してやる」
ふっと、突如熱を帯びていた鉄槌から"火"の文字が消える。
一気に辺りが闇にまた包まれた。
まだビリビリと痛みはくるけど、我慢できない程じゃない。
慌てて体を起こして、傍にあるラビの団服を掴んだ。
鉄槌から伝わる振動に、部屋が淡い光に照らされる。
その光の原因は、ラビを中心に浮かび上がる幾つもの文字の"印"から。
「"木判(もくばん)"」
その印の一つである、"木"の字に鉄槌の側面を叩き付ける。
すると淡い光を放ちながら、鉄槌の側面に"木"という字が焼き付くように浮かび上がった。
「それ…」
「まぁ見てろって」
ラビのイノセンスである鉄槌は、複数の攻撃技を持つ。
その中で"木判"は"火判"のような打撃系ではなく、自然物限定で影響を与える特殊系の技だ。
「"天地盤回 (てんちばんかい)"!」
バンッ!と水の床に叩き付けられる鉄槌。
叩き付けられたその場に、"木"と書かれた巨大な文字が浮かび上がる。
「余計なもんは排除さ。"ただの水"なら消えてなくなれ!」
ラビが叫ぶと同時に、カッ!と床の"木"の字が強く光る。
一瞬目も眩むそれに、ラビの団服を掴んだまま咄嗟に目を瞑った。
「っ…」
シュワッとまるでミストのように、蒸気へと変わる水分が肌を撫でた。
「…ぁ…」
強い光が消えて、部屋が真っ暗闇に再び包まれる一瞬。見えたのは、壁に映し出されていた人影が蒸発するように消えていく様。
そして、足元のビリビリとした痛みが一斉に消えた。