My important place【D.Gray-man】
第26章 ワレモコウ
「ただ、スープを温めるのにちっと時間がかかるんでよ。中で待っててもらえるかい?」
「いえいえ、こんな夜遅くに迷惑でしょうし。此処で待てます」
「いいって。寒いだろ、そんなナリじゃ」
苦笑混じりに首を横に振る雪の手を、男が掴む。
「ついでに体も温めていきな。そっちもサービスするから」
「そっち?」
強く手を引っ張られているのか、半ば踏ん張るようにして雪が疑問の声を上げる。
おいおい…マジかよ。
本当に疾しいことされてるさ。
「って言ってる場合かッ」
思わず声に出して、慌てて駆け出す。
「雪!」
「…ラビ?」
声を上げて呼びかければ、雪と男の顔がオレに向いた。
同時に、ぱっと男の手が雪から離される。
「あれ、なんで?」
「荷物持ちしようかと思ってさ」
ニ、と雪に笑いかけて、その表情のまま男に視線を変える。
「スープは遠慮するさ。これだけで充分」
「ぁ、ああ…」
「ツリは要らねぇから」
「あ、ラビちょっと」
雪の持ってる財布から、抜き取った札を男に押し付けた。
いいだろ、どうせ教団の経費になんだし。
「行こう、雪」
「ぇ、と…ありがとうございました」
購入した飯の袋を片手で抱えて、雪の手首を掴む。
律儀に頭を下げる雪に、男は気まずそうにしながらそれ以上何も言わなかった。
「はぁ…やっぱ夜中に一人は危険さな」
「危険? 何が?」
「何がって…変なことされそうになってただろ」
「…あ。」
雪の手を引きながら露店から離れる。
振り返って言えば、その言葉で理解したのか。何度も目を瞬きながら、雪は納得したように頷いた。
「そっちもサービスって…ああ、そういうこと…」
いや、普通に感心してんじゃねぇさ。
「あんな遠回しの言い方じゃわかんないよ。温かい飲み物でもくれるかと思ったのに…残念」
「残念って。危機感ねぇな」
「だってあの人くらいなら、腕で負かせると思うし」
まぁ、そうだろうけどさ。
…男としては心配なんだって。