My important place【D.Gray-man】
第25章 Noah's memory
「──よっし! 腹も膨れたし、調査開始さ!」
ぐしゃりと携帯食の包みを手で握り潰しながら、ラビが元気よく声を上げる。
…あれは勢いで自分に喝を入れてるな。
この場の怖さを吹き飛ばすために。
「っスね!」
同じく声を上げるチャオジーは、恐らく本当に元気なだけ。隠してる恐怖心なんてない。
多分、初めての任務でイノセンスの可能性も出てきたし、そっちの嬉しさが強いんじゃないかな。
──ピチャン…
「…?」
振り返る。
「雪? どうしたんさ?」
「……今、何か…聞こえた気が…」
「え?」
じっと目を凝らす。
暗い廊下の先には、何も見えないけれど。
──ピチャン…
やっぱり。
微かだけど聞こえる、水が滴るような音。
「こっちから水音がする…っ」
「ほんとっスかっ」
「雪、一人で行くなさっ」
つい追いかけるように小走りで進む。
その後からついてくる、チャオジーとラビ。
「水音なんて、オレ聞こえねぇけど…」
「俺もっス」
「でも確かにしたんだよ」
その微かな音に誘われるように、暗い廊下を進む。
「…あれ?」
すると微かに聞こえていた水音は、聞こえなくなった。
「音、何処から聞こえてるんスか?」
「それが…さっきまで聞こえてたんだけど…」
可笑しいなぁ…空耳だったのかな。
首を傾げながら灯りを手に進んでいると、
パシャ、
聞こえたのは水を踏む音。
──あ。
「…あった」
視線を足元に下げる。
其処には、いつの間にできていたのか。小さな水溜りがあって、自分の足が片方だけ浸かっていた。
これがさっきの水音の原因なのかな。
「また誰かが零した水なんスかね?」
「…多分、違うんじゃねぇかな」
チャオジーの言葉に、静かな声で応えたのはラビだった。
その顔が、水溜りから上がって横へと向く。
「この水、その部屋から溢れてるさ」
つられるまま目を向ければ、ドアの下の隙間からじわじわと水を溢れさせている部屋の入口があった。