My important place【D.Gray-man】
第25章 Noah's memory
「じゃあこの中に人形が──…痛っ」
ピリッとした痛みが水に浸かった足先から伝わってくる。
反射的に足を上げて、水溜りから退く。
「どしたんさ」
「ううん」
なんだろう、静電気?
「とにかく入ってみましょうっ」
「あっ」
「おいっ」
私達に構わず、一人潔くドアに手をかけてバタンッと開けたのはチャオジー。
そこには一部の迷いもない。流石エクソシストの鏡。
「うわ…」
その部屋の中は、床一面水浸しだった。
三人で恐る恐る、水浸しの部屋に足を踏み入れる。
「この水、どっから来てるんさ」
「水道管みたいなものはないっスねぇ…」
「っと…わ、」
「見た目にはフツーの水っぽいけど」
「あの人形も、見当たらないっス」
「っ…ちょ、」
「そーさなぁ…って。何してるんさ、雪」
二人の後に続いて部屋に入ってぎこちなく進む私に、あちこち見渡していたラビの顔が向く。
いや、その。
「なんかこの水、変じゃない?」
なんとかパシャパシャと水の床を渡って、部屋の中心にあった瓦礫の山に上がる。
「変って何が?」
首を傾げるラビに、どう答えたら伝わるのか。なんとなく、上手い表現が思いつかない。
「なんか…違和感というか…」
「違和感っスか?」
「うん…」
なんか、ピリッとする。
チクチク足を僅かに刺されるような、そんな微弱な違和感。
「静電気って言うには、ちょっと違うような…なんだろう」
「静電気?なんでさ」
瓦礫の上から屈んで、目の前の薄い水溜りを見下ろす。
恐る恐る手を伸ばして、灯りに揺らめく水の波紋が私の顔を映し出した。
「なんか──…」
指先が揺れる水の波紋に触れそうになった時。其処に映る私の顔に、つい動きが止まった。
見えたのは、私の背後から半分覗く顔。
「っ!?」
反射的に振り返る。
「雪?」
「どうしたんですか?」
だけど其処にあるのは部屋の壁だけ。
誰もいない。
慌てて再び向き直る。
水に映っているのは、驚いた顔をした自分の姿だけ。
私の背後には、何も映っていない。