My important place【D.Gray-man】
第23章 2/14Valentine's Day(番外編)
「それより急に目の前から消えるんじゃねぇよ。呼んだだろ」
「え?」
──あ。
神田と逸れた時に聞こえたあの声は、空耳じゃなかったんだ。
「ごめんなさい」
「だから謝んな」
頭を下げれば、鬱陶しそうに返される。
「次は呼んだら、手を伸ばせ」
手?
「そしたら掴まえていられる」
思わず顔を上げれば、濡れた黒い目が真っ直ぐにこっちを見ていて、その手が緩く私の手首を握った。
「ほっといたらどっか消えてくように見えるんだよ。お前」
「どっかって…何処にも行かないよ」
私が求めるものは、ここにあるから。
「いいから、ちゃんと伸ばしてろ。無駄に心配させんな」
手首を握る神田の手に、僅かに力がこもる。
…心配してくれてたんだ。
だからこうやって捜してくれて…雨音しかしないこの世界から、私を見つけてくれた。
「…うん」
ザーザーと降り続く雨は変わらない。
その中で一人きりだと思っていた世界は、二人きりになった。
隣に神田がいる。
それだけで、こんなに安心できる自分がいる。
雨に濡れていつもよりひやりと冷たい肌なのに、手首に感じるその体温は私の心を温かくする。
神田にとって譲れない大事なものは、何かわからない。
私にとってそんな譲れないものは、両親の記録だけだったけど。
…きっとこれもそうなんだ。
目の前のこの人の存在も、きっと。
私には譲れないもの。