My important place【D.Gray-man】
第23章 2/14Valentine's Day(番外編)
どれくらいそうしていたんだろう。
「…くしゅんっ」
小さなくしゃみが漏れて、瞑っていた目を開ける。
ザーザーと降り続ける雨は止む気配はなく、未だに私の周りを取り囲んでいる。
寒さを感じる体を抱いて、目の前の地面にできた水溜りに目を落とす。
この世界に一人きり。
それはまだ変わらないけど。
「…踏み出したら、変わるかな」
思い切って一歩踏み出して、見えていたものは大きく変わった。
もっと踏み出してみれば、もしかしてこの雨の中の世界も変わるかもしれない。
「…くしゅッ」
もう一度くしゃみが漏れて、思わず俯く。
──バチャ、
聞こえたのは、水を踏む音。
「……ぁ」
顔を上げる。
見えたのは、橋の煉瓦に手をかけて私を見下ろす黒い人。
「何やってんだよ」
長い黒髪を肌に張り付けて、全身濡れた姿で立つ神田だった。
「……どうして…」
一体どうやって見つけたのか。
思わず驚き呟く私に、深々と溜息をついて橋の下に入ってくる。
「どうしてもこうしてもあるか。人が捜し回ってんのに、こんな所で居眠りかよ」
「ね、寝てないよ」
ちょっと休憩してただけで。
ちょっと雨宿りしてただけで。
……。
…うん、ごめんなさい。
「神田、凄いずぶ濡れ…」
「当たり前だろ。雨が降ってんだ」
ドサリと隣に腰を下ろしてくる神田は、頭から足先までびしょびしょだった。
ぽたぽたと長い黒髪から滴る雨水は、止まることなく黒い服にしみ込んでいく。
明らかに私より濡れてる。
…それだけずっと、この雨の中捜してくれたんだ。
「…ごめん」
「何が」
「雨の中、捜させて」
「別に。これくらい平気だ」
濡れた黒い上着を脱いで、チャイナ服の襟元を開けて緩めながら神田の目が私に向く。
「でも、風邪ひいたら…」
「んなもん、今までひいたことない」
「え、嘘」
「お前とは体の造りが違うんだよ」
当たり前のように口にするその言葉に、なんとなく納得した。
あっという間に怪我も完治する体なら、本当に風邪なんかひかないんだろう。