My important place【D.Gray-man】
第4章 溝(どぶ)に捨てたもの
「ファインダーさんも。どうぞ」
「ぁ…はい」
促される掌に、恐る恐る指先を伸ばす。
初めての方舟だからしっかり覚えていたのに。
AKUMAウイルスや神田のことや、色んなことがあった所為か、記憶は朧気だった。
どうしよう。
大変まずいです。
「……」
えっと確か…6281、07…えっと──
「…え。」
「え?」
「?」
私がなぞった数字に、司祭さんが声を漏らして。
つられて私も声が漏れて。
そんな私達に、先に教会に踏み入れていた神田の怪訝な視線が向く。
…まさか。
「…違います」
ぎこちない笑みを浮かべて言った、司祭さんの言葉はまさかのものだった。
ま じ で す か。
「お前…」
あ、そんな目で見ないで。
心底阿呆なものを見る目を向けてくる神田に、思わず顔を逸らす。
そんな目で見ないで下さい、居た堪れないからっ。
「すみません。暗証番号が違うと、ゲートには通せなくて…」
ですよね!
安全第一の為に、少しでも味方か疑いが出た者は方舟ゲートには通せない。
教団本部が襲われてから、その確認は厳しくなっていた。
口を酸っぱくして警護班の人に教えられていたのに。
まさか間違えるなんて。
今までそんな重大なミスしたことなかったから、恥ずかしさと焦りと、ついでに神田の阿呆を見るような目に居た堪れない。
穴があったらとにかく入りたい。
「阿呆にも程があるだろ。この阿呆」
「ぃ、一回言えばわかるからッ」
呆れた顔した神田の手が、べしんっと私の頭を叩く。
甘んじて受け入れるから、その平手打ちも。
だから阿呆って言わないで。
自分が一番わかってるから!
──ズキ、
「…た、」
思わず叩かれた頭に手を置いていると不意に鈍い頭痛がして、私を見ていた神田の顔がぎょっとした。
え、何。
「え。」
ぬる、と額を何かが伝う感触。
思わず頭に置いていた手で、それに触れる。
目の前に下ろして見えたのは、掌に付いた真っ赤な血。
「神田さん、力入れ過ぎです…」
「お前の頭が脆過ぎんだろ…」
お互いに唖然と呟く。
平手打ちで出血って。どんだけ脆い頭ですか。