My important place【D.Gray-man】
第4章 溝(どぶ)に捨てたもの
いやいや、まさか。
神田の平手打ちはいつもの力加減だったし、多分この血は今の衝撃で切れたものじゃない。
AKUMAのウイルスで気絶した時に頭でも打ったのかな…。
──って、それより。
「頭のお怪我は、応急処置くらいならできますが…ゲートへの通行は諦めて下さい」
問題はそこだ。
「ぃ、いえいえ。これくらい、自分で処置できます」
司祭さんの言葉に首を振って、ズキズキと僅かに痛む頭を押さえて後退る。
「私、自分で帰りますんで。大丈夫です。はい」
暗証番号を間違えてしまえば、帰る道は一つだけ。公共の乗り物しかない。
方舟のない以前も、当たり前にそうやって移動していたんだから。
それくらい平気。
うん、平気平気。
「室長にも自分で連絡しておくから。神田はとりあえず口頭報告だけ、お願いします。じゃっ」
「あ、ファインダーさんっ」
ペコリと頭を下げて神田には念を押して、司祭さんの声を待たずに逃げるように教会から出る。
暗証番号を間違えるとか、そんな重大なこと今まで誰もしなかっただろうし。
そんな恥ずかしい場面、早く逃げ出したい。
「…はぁ…間抜け過ぎる…」
逃げるように教会を出て、額を押さえながら僅かに痛む脇腹を庇って歩く。
こんな間抜けな姿、ラビ辺りに知られたら絶対笑われる。
多分、神田は無駄に周りには言わないだろうけど…暫くはこのネタで、阿呆扱いされそうな気がする。
時刻は深夜。
列車なんて出てないし、宿を見つけてから明日帰るしかない。
やっと帰れると思ってた気持ちが絶たれた途端どっと疲れがきて、大きく溜息をつきながら私は凹んだ。
「…あ。」
…そういえば、帰りの電車賃足りたかな。