My important place【D.Gray-man】
第4章 溝(どぶ)に捨てたもの
「お優しいのですね」
「…いえ」
にこにこと笑みを称えて、褒めてくる司祭さん。
それは純粋な褒め言葉だったんだろうけど、私には不釣り合いな気がした。
この子の状況下もよく知らないのに、こうして好意を押し付けてるのはある意味、他人の自己満足だと思う。
もしかしたら、どれもそうなのかもしれない。
相手が望むものであれば"良い事"として処理されるだけであって、相手が望まないものであれば、それは単なる"傍迷惑(はためいわく)"。
きっと神田はその望まない気持ちが他人より大きくて。だから人が触れようとする手前で、拒絶する。
それが神田の性格だからと言ってしまえばそれまでだけど、単なる性格だけで片付けられないことのように感じた。
人の性格は、思いや経験で形作られたりするものだ。
何か神田をそうさせる、きっかけでもあったのかな…。
「では、どうぞ」
ス、と片手を差し出す司祭さんの言葉に、はっと我に返る。
駄目だ、考え込んでしまってた。
見ればその手は方舟ゲートのある部屋へと促すものではなく、握手をするように差し出されている。
……ん?
「はい、確認取れました」
その掌に当たり前のように、神田が指先で何かを示すようになぞる。
それを確認した司祭さんが頷いて──あ。
そうだ、これ確か。味方かどうか識別する為に、方舟を使う際に暗証番号を個人で配布されたんだった。
大事な暗証番号だから、紙に書いたりすることは禁止されていて、頭の中でその8桁の数字を記憶していないといけない。
……まずい。