My important place【D.Gray-man】
第3章 夢Ⅰ
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「…っ…?」
薄らと目を開く。
微かに揺れる、自分の体。
目の前にぼんやりと映ったのは…赤い髪紐と黒い長髪。
…これ、見覚えがある。
「…神、田…?」
微かに揺れる自分の体。
それは地面を踏みしめる、神田の足によるものだった。
「気絶すんなつっただろ」
止まる足。
顔だけ振り返ったその目が重なる。
「私…え…っつぅッ」
段々と頭が覚醒する。
身を起こそうとすれば、ズキリと脇腹に痛みが走った。
「完治はしてない。無駄に動くな」
「え、なん…どういう、こと」
確か、私はAKUMAの銃弾を受けたはず。
AKUMAのウイルスを体内に入れた者は、数分で死に至る。
はずなのに。
「まさか効くとは思ってなかったが…お前の生命力が異常だったんだろ」
「何が…これ…っ…はッ?」
「暴れんな。落とすぞ」
どうやら私は、神田に背負われてるらしく。
その視線の高さに思わず狼狽える。
「クゥーン」
聞いたことのある鳴き声に視線を落とせば、神田の隣を付いて歩く、墓地で出会ったわんこの姿が見えた。
でも周りに廃れた墓標は見えない。
まさか墓地から歩いて戻ってるの?
私を背負って?
「じ、自分で歩くよ…距離、遠い」
墓地から方舟のある街まで、徒歩で移動するだけでも大変な距離だ。
ぎこちなく肩に手を置いたまま言えば、鬱陶しそうに神田は視線だけ寄越した。
え、何。
「完治してないつってんだろ。お前の歩幅に合わせてたら陽が昇る」
辺りはもう真っ暗闇。
此処はぽつんぽつんと、申し訳程度にしか街灯がない廃れた道だ。
時刻も定かじゃないけど、その言葉に反論はできなかった。
脇腹の痛みはまだ残ってる。
「……」
スタスタと進む神田の足。
私と私の荷物を背負ってるのに、普段の速度とまるで変わらない。
寧ろ速く感じるそれには感心した。
「…ごめん」
申し訳ないのと、そんなふうに誰かに背負われたことがないから。どう身を預けていいかわからず距離を置く。
「落ちる。動くな」
すると顔を前に向けたまま、ぴしゃりと言われてしまった。
…どうしよう。
仕方なしに、その背中に身を寄せた。