My important place【D.Gray-man】
第3章 夢Ⅰ
夢を見た
『えーん、えーん』
幼い頃の記憶
右も左もわからない、そんな道端で
一人立っている私
転んで怪我をした足を引き摺って
両手で顔を覆って、泣く幼い姿
…ああ、嫌な夢だな
『えーん、えーん』
泣いたって誰も来ないのに
そんなこと、もうとっくにわかってるはずなのに
何かに縋ろうとして涙は止まらない
弱い自分
『えーん、えーん』
弱い自分が嫌い
待ってるだけじゃ何も起こらない
それを悟って、自分から黒の教団に赴いた
だけどそんな簡単なことを悟るまで
随分、時間を費やした気がする
『えーん、えーん』
泣かないでよ
泣いても誰も来ないから
あの日、陽が暮れるまで泣き続けて
私は一人で明かりのない家に帰った
思い出させないで
「泣いてるのぉ?」
──え?
「そんなに泣いたら、おめめが溶けちゃうよ」
振り返る
見えたのは、知らない女の子の口元
顔は見えない
「あ。怪我したんだね。うわぁ、痛そう」
幼い私の頭に触れる、褐色の手
「一人でおうちに帰ってきたの? 偉いねぇ」
良い子、と呟いて
何度も優しく頭を撫でる
「もう泣かなくていいよ」
欲しかった言葉
欲しかった温もり
当たり前にくれるその行為に、幼い私の顔がくしゃりと歪む
あ、駄目だ
泣いてしまう
「大丈夫。ボクがちゃーんと見つけてあげたから」
小柄な女の子が、迎え入れるように両腕を開く
それでも幼い私には、充分大きな腕の中で
一瞬戸惑う
知らないこの腕の中に、身を預けていいのか
「大丈夫だよ。大丈夫」
何度も安心させるように唱えてくれる言葉
そこに偽りは見えなくて、不思議と安心した
ああ、多分
この腕の中は"大丈夫"
──きっと