My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「にしても随分と強行したな。"快楽(ジョイド)"という名に相応しいものではあったが」
「…どこがだよ」
これ以上は、と踏み込むのを止めた雪を、無理矢理に快楽に落とした。
自分を求めるように。自分しか見えなくなるように。
あれでは強姦と変わらない。
(否定は、できねぇけど)
しかし問題はそこではない。
問題なのは、そこに罪悪感は生まれなかったことだ。
最後に雪らしいいつもの姿を求めた時は、多少の後悔はあったが、もう二度と同じことをしないという気にはならなかった。
無理矢理に快楽に染めて、堕ちていく雪に興奮した。
もっと自分しか見えなくなるように、自分しかわからなくなるように、深く熱を刻み付けたいと思った。
自分の掌の上でだけ、あられもない姿を晒してくれるなら、悪役でいたっていいのだ。
そもそも自分が正常な人間などとは思っていない。
「…まいった」
「ふむ? いいではないか。綺麗事ばかり並べて雪を歪に愛する教団の者達よりは、ずっと率直で好感が持てるぞ」
「だから読むなって」
「読まなくてもわかるわい」
ずるりと背を擦り落とすと、己の目元に手の甲を乗せてベンチに凭れる。
ティキのその姿を見れば、纏う感情も自然と見えてくる。
「主はジョイドだ。ノアの中でも怒(ラースラ)同様、欲への力が一層強い。その欲を解放すれば、更に強くなれるじゃろう」
「…それであのセカンドエクソシストを殺せるなら、願ったりだけど」
目元を覆っていた手を退く。
先程までの人間らしい感情は消えて、底冷えするような眼差しだけが残っていた。
「余程あの男が気に入らんのだのう」
「当然」
中途半端な熱を持たせたまま、雪を取り逃がした。
今頃現実世界では、あの男と熱を分かち合ってでもいるのか。
そんなことを考えただけで、腸が煮えくり返る。
「自分の腕を上げることも大事だけど、いい加減雪を奪い返す算段をつけなけりゃ、何も始まらない」
溜息と共に身を起こす。
いい加減、この曖昧な境界線をどうにかしなければならない。