My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「この先は、"外"で。ね」
「外…? ティキも、一緒…?」
「…いいや」
僅かに眉を顰めて、笑う。
「俺は行けない。雪だけが行ける場所」
「なんで?」
「望まれてないから」
「誰、に?」
「俺を"悪"と見做す者」
「ティキは、悪じゃないよ」
「ん。ありがとな」
「本当、だよ。ティキが悪いものなら、私は」
「いいんだ、間違ってない。俺は甘んじてその立場にいるからな」
「え…」
浅黒い親指の腹が、雪の目尻を撫でる。
「俺は必要悪でいい。それで雪を攫うことができるなら」
「さら、う?」
「雪を傷付けるものから。それが正しいことだと決め付けて、縛り付けるものから」
「…?」
「いいよ、今はわからなくて。いずれわかる」
指先の触れる体温が、薄れていく。
体の芯で感じていた熱が、退いていく。
「それまで待ってな。近いうちに必ず、会いに行く。教団とノアとしてじゃなく、家族として。雪を攫いに行くから」
「…家族…」
「雪が欲しかったものを、俺があげる」
声が遠のく。
すぐ目の前にあるはずの表情さえ、ぼやけて見えなくなっていく。
「本当に、欲しいものを」
本当に欲しいもの。
それがなんなのか、自問自答するまでもなく理解していた。
ずっとずっと焦がれていたものだ。
あたたかくて、まばゆくて、いとおしい。
自分にはもう取り戻せないと思っていたもの。
無意識に握り締めていた。
離さないように、強く。
目尻に触れていた、その手を。
「ティキ…」
名残惜しむように、その名を紡いで。
雪は切なに、思いを告げた。
「待ってる、から」
幼きあの日。クロスに見つけて拾われた。
父と母の情報だけを、胸に抱いて願ったように。
いつまででも待とう。
いつか〝その時〟が来るまで。
教団が隠し続ける二人のことを、自分は教団の中で思い続けよう。
ただ一人、その想いを抱え続けよう。
そう決意したあの時のように。
だから〝その時〟がきたら。
「迎えに来て」