My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
見つけたというか、目が合った。
ユウと同じに真っ黒なその瞳と。
「…っ」
先に逸らしたのは向こう。
ぱっと視線を外して、そそくさと去ろうとする。
「あっ」
「雪ねーちゃん?」
気付けば席を立っていた。
なんて声を掛けたらいいのか。
そんなことも思いつかないまま、慌ててその姿を追い掛ける。
「待って…っチャオジー!」
エクソシストの一人、チャオジー・ハンを。
「っ…なんスか?」
声を掛ければ、去ろうとしていた足を止めて振り返ってくれた。
それでもそこに、見慣れた人懐っこい笑顔はない。
前は…私がノアだと知られる前は、あんなに懐いてくれていたのに。
ユウの話とか、色々聞きたがってくれていた。
でも私がノアだと知ってから一変したチャオジーの態度。
前にアレンに対して素っ気ない姿を見せていた時は、軽い違和感があったけど…今なら理由がわかる。
14番目のノアメモリーを宿しているアレンに対しても、チャオジーが抱えている感情は決して良いものじゃない。
だから違和感があったんだ。
「えっと、おはよう」
なんて声を掛けたらいいのか。
緊張と焦りでなんとか絞り出せたのは、極々あり触れた日常挨拶だった。
「…っス」
対するチャオジーの挨拶は、素っ気ないものだった。
ぺこりと頭を下げて、朝食のトレイを手にしたまますぐまた背を向ける。
わかっていたけど。
でもそんなあからさまに変わってしまった態度を真正面から受け止めるには、難しくて。
…受け止めたく、なくて。
「ま、待って!」
気付けば手が伸びていた。
「…まだ、なんかあるんスか?」
「え、ええと…ぃ、一緒にご飯、食べない?」
「は?」
握ったのはチャオジーの服。
振り返った顔が、冷たい表情から怪訝なものへと変わる。
それでもいい。
無機質な顔を向けられるくらいなら、こっちの方がまだマシだ。