My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
背後の気配を探りながら、ゆっくりと振り返る。
視界を覆い尽くすような葉の雨の中、其処には想像した姿があった。
真後ろに影を帯びて立っていたのは、巨大な錆色体のAKUMA。
…これはまずい。
距離が近過ぎる。
「テメェのカラダ、食わせろよ」
目も鼻も口もないただの丸いオブジェのような頭部が、脳天から四方に亀裂を入れて割れる。
ぬちゃ、と唾液のようなものを滴らせ裂けた頭部の中には、鋭い歯列が見えた。
蛸の足のような触手状の舌が、うねり覗く。
…レベル1以上のAKUMAは個々で全く容姿が異なるから、姿形も様々だけど…なんでこう、悪趣味な風貌のものが多いんだろう。
AKUMAというよりクリーチャーだ。
「逃げなくていいの?こんな所にいたら、私と一緒に巨大樹の下敷きになるけど」
「ハッそれくらいじゃぁ死なねぇよ。テメェら貧弱な人間と一緒にすんな!」
相手を下手に刺激しないよう、慎重に呼び掛ける。
少しでも距離を取ろうと半歩だけ後退れば、蠢いていた触手舌が瞬時に反応を見せた。
「逃がさねぇって言っただろ!そのイノセンスも寄越しやがれ!」
「っ」
ビシリ!と。
まるで鞭のように、素早く私の足元の地面を触手舌が叩く。
思わず足を止めれば、耳元で荒々しい舌打ちが聞こえた。
凄く聞き覚えのある、馴染んだ舌打ちだ。
『何やってんだ逃げろ馬鹿!ガキの体は結界があるから死なねぇよ!』
『えぇえー!?なに言ってんだよあんちゃん!あそこにはツキカミもいんだぞ!』
『イノセンスだろうが、使い手のお前が無事ならあいつも無事だ!』
『えっそうなの!?そういうもん!?』
未だにAKUMA達と戦り合っているんだろう。
荒々しい舌打ちのすぐ後に聞こえたのは、金属がぶつかるような音に混じる二つの声。
カーフ型通信機から流れてきたのは、ユウとティモシーの声だった。