My important place【D.Gray-man】
第45章 10/31Halloween(番外編)
"無駄"という言葉は甘んじてスルーすることにした。
珍しい雪の姿を、一日に二度も見ることができたのだから。
「俺が他の女に目移りするとでも思ってんのか」
「思ってないよ。でも…」
「嫌か」
「…うん」
リナリーやミランダ相手だとそんな気持ちは湧かないが、見ず知らずの女性に歩み寄る神田は、見ていて心地良いものではなかった。
それは間違いようのない、確かな嫉妬だ。
「…縛るなら…私を見てて」
伸びた手が、そっと神田のマントの裾を握る。
「あんまり余所見しちゃ、やだよ」
か細い声ながら、確かな雪の我儘。
しかし神田には甘い言葉にしか聞こえなかった。
雪だけが生み出す、甘い言葉の欠片達。
甘い物は嫌いなのに、これだけは延々と味わっていられる。
寧ろ、味わい続けていたいものだ。
「…菓子、まだ貰いに回るんだろ」
「え?ぁ、うん…」
「ほら」
差し出されたのは、黒い手袋に包まれた左手。
「え、と…これって…」
「手。貸せ」
言われるがまま差し出した雪の手を、一回り大きな手が握る。
そのまま歩き出す神田に、戸惑いつつ雪も続いた。
進む速度は先程よりゆっくりと。
雪の歩幅で充分、ついて行けるように。
まじまじと神田の横顔を見上げた雪は、視線を繋がれた手元に落とすと自然と顔を綻ばせた。
手を繋いで街中を共に遊び歩くなど、まるで恋人同士がするようなことではないか。
振り返ればそんな些細で当たり前なことを、神田とじっくりしたことはなかった。
柔く握り返す。
鋭い獣の爪を備えた手だからこそ配慮して握り返した雪に対し、返されたのは確かな掌の力。
まるで先程宣言した通りのように、それは神田からの言葉無き束縛のように感じられた。
笑みがまたひとつ。
雪の頬を緩ませて。