My important place【D.Gray-man】
第14章 黒の教団壊滅未遂事件.
「…今更だろ」
視界を真っ暗に遮られたまま。
耳に届いた神田の声は、酷く落ち着いていた。
「俺を一度も見ようとしないで、作り笑いばっかで。大した力もない癖に、我慢だけは一人前で。お前が面倒臭い奴なんてこと、今更。考えなくてもわかる」
そんな面倒臭い人、普通は関わりたがらない。
神田はそんな人だ。
今まで何度も任務で行動を共にしてきたから、わかる。
「…無関心かと思えば、いきなり気持ちなんざ見せてきて。上手く言葉にできない癖に、ぶつかってきて。お前みたいな予測不能な阿呆、早々いねぇよ」
…予測不能な阿呆って。
そんな人を珍人みたいに言わないで下さい。
「俺はモヤシみたいに、助けられるなら誰でも抱えようとする奴じゃない。そんな奴になろうとも思わない」
不意に出たアレンへのその言葉は、対抗心じゃなかった。
アレンにはアレンの、神田には神田の。それぞれが思う生き方が、きっとあるんだろう。
私にもあるように。
「…だから今更だ。お前の面倒臭さなんて知ってる。……それでも見せろっつってんだ、うだうだ言うな」
最後の言葉は溜息混じり。
それは神田らしい、ぶっきらぼうな言葉だった。
ぶっきらぼうな言葉だったけど。
簡単に誰かを抱えようとしない神田が、面倒を承知で私のことを見ようとしている。
それだけで、もう充分だった。
「っ…」
「…泣くなよ」
「…泣いて、ない…」
目頭が自然と熱くなる。
泣くなと否定しながら、その声は咎めることなく。
目元を覆う手は、そっと触れたまま離れることはなかった。
それは幼い自分が渇望したものとは随分違っていた。
優しい言葉も、温かい抱擁もない。
それでも。
私にはそれが何よりも、心に満ちるものだった。