My important place【D.Gray-man】
第14章 黒の教団壊滅未遂事件
ぎゅっと歯を食い縛って、恐る恐る目を開ける。
見えた神田の顔はすぐ近くにあって、その真っ黒な瞳に私の顔が映し出されていた。
くしゃりと歪んだ自分の顔。
泣き出しそうな、子供みたいな顔。
まるで昔の自分。
何かに縋ろうと、無意味に泣いていた幼い自分。
情けなくて醜くて、本当嫌になる。
こんな自分が、私は嫌い。
「酷ぇ顔」
じっと間近で見てくる神田が不意に呟く。
わかってるよ、そんなこと。
だから見られたくなかったのに。
「なら見ないでよ…」
なんとか絞り出した声は、思った以上にか細く情けないものだった。
「でも嫌いじゃない」
…………え。
予想もしなかった声に、つい凝視する。
視界いっぱいに映る神田の顔。
サラサラの黒髪。
肌に影を落とすくらい、長い睫毛。
女性顔負けな程の整った顔立ち。
それはいつもと変わらない、神田の顔。
「作った顔より、断然マシだな」
僅かに上がる口角。
それは任務中にAKUMAに向けるような、よく見る好戦的な笑みじゃなかった。
薄らとだけど、確かに…神田は笑った。
それはいつもとは違う、神田の顔。
その笑みは一瞬だったけど、初めて見た顔に思わず息を呑む。
「別にお前の全部を否定しねぇよ。お前がそうやって作る顔に、意味があるなら」
顔を掴んでいた手が離れる。
同時に、近くにあった顔も離れていく。
「ただ俺を見ていたいって思うなら、ちゃんと俺を見てろ。大事な時まで自分を作るな」
それでも、その黒く真っ直ぐな目は私から一度も逸らされなかった。
「お前もちゃんとお前自身を見せてろ。俺には知りたいだなんだ言ってくる癖に、自分は隠すんじゃねぇよ」
真っ直ぐ向けられる言葉。
そこには迷いなんて微塵もない。
それって、もしかして。
「……」
もしかして。
「……っ」
私のこと、受け入れてくれてるのかな。