My important place【D.Gray-man】
第14章 黒の教団壊滅未遂事件.
ぐす、と小さく鼻を啜る。
未だに私の視界は真っ暗なまま。
「…神田、」
「なんだよ」
呼べば、この目元のひんやりとした手の持ち主が応える。
どれくらいそうしていたのか。
落ち着いてきた気持ちに、おずおずと私からこの空気を変えようと切り出した。
「もう大丈──」
バタン、
「月城、30分経っ」
「痛い痛い痛い!」
「…何やってるんだ?」
まるでタイミングを見計らったように、開いたのは隣接した実験室の扉。
其処から声をかけるバク支部長に、まるで光の速さの如く、神田は袖で乱暴に私の目元の涙を擦り上げた。
ごしごしと。
それはもうごしごしと。
痛いくらいにごしごしと。
というかとっても痛いです!
「別になんもねぇよ。解くんだろ、手錠」
「ああ……月城、目元が赤いが…大丈夫か?」
「ぁ、あはは…はい。ちょっと…埃が入って、神田に取ってもらってたんです」
曖昧に笑って言えば、バク支部長は怪訝な顔をしたもののそれ以上問い掛けてこなかった。
「──ふぅ…」
やっと外された手足の錠に、安堵の息を付きながらベッドの上で身を起こす。
「ワクチンもそろそろ完成する。神田、一緒に頼む」
「ああ」
バク支部長に呼ばれて実験室に向かう神田の背中を見送りながら、ふと目が止まったのは、上壁に設置された小さな窓。
「あ」
そこから差し込んでいるのは、薄らとした陽の光。
どうやらあのずっと停滞していた強い嵐は過ぎ去ったらしい。
「…よかった」
小さく息を吐く。
ぽちょ、と膝の上に乗ってくるティムに目を落として。
「これで皆、元に戻りそうだね」
笑いかければ、金色のゴーレムは愛嬌ある仕草で長い尾をひと振り、揺らした。
不気味で馬鹿らしくて、奇妙でどこか悲しくて
そして、何よりも忘れられないことが起きたこの事件は
どうやらやっと、解決の道に向かいそうだ。