My important place【D.Gray-man】
第13章 夢現Ⅰ,
ただ。
過去を聞き出す気はねぇが、こいつが腹割って話そうとするなら…その時は耳を傾けようと思った。
傷の舐め合いじゃなく。
こいつが拙いガキみたいな声で、痛いと吐いた言葉。
それを聞き逃したくないと思ったから。
そこに明確な理由はない。
相変わらず、それは靄がかかったような曖昧な思い。
それでも不思議と、前のような苛立ちはなかった。
「……にしても、お腹減ったな…」
廊下の柵に腕を乗せて、月城が力なく項垂れる。
…そういや昨日の夜から、なんも食べてねぇな。
「ジェリーさんの朝ご飯定食が食べたい…」
「食いもんの話なんざしたら、余計に腹減るだろ」
「だって──…あ。」
顔を上げた月城が言葉を続けようとして、不意に止める。
その視線の先は大廊下。
「見て、ティエドール元帥が食堂の方に向かってる…っ」
「やっと行ったか…」
食堂へと続く廊下の奥に消えていく姿に、つい脱力する。
「いいな…食堂…」
「言ってる場合か。今のうちにさっさと此処から出るぞ」
「…うん」
恨めしそうに食堂に続く廊下を見た後、月城は渋々頷いた。
今行ったって、ジェリーの飯が食える訳じゃねぇだろ。
「食い意地張ってんなよ」
「アレン程は張ってないよ。普通です、普通」
「…なんでそこでモヤシが出てくんだよ」
「なんでって、例えで──…え、それも駄目なの?…本当に仲悪いんだね、二人」
周りを確認しながら、一階廊下に降りる。
月城の口から出てきたモヤシの名に顔を顰めれば、まじまじと感心するように目を向けられた。
あんな奴と仲良くする義務なんてねぇよ。
「まぁでも、喧嘩する程仲が良いって言うし」
「寝言は寝て言え」
「案外、気が合うかも」
「気味悪いことぬかすな」
言葉を交えながら進めるのは、辺りに然程ゾンビがいないからだ。
この分なら、案外簡単に外に出られそうだな。
「でも──」
「なんですかこれぇえええ!!」
その時。未だモヤシ云々、うざいことを言ってくる月城の声を遮ったのは知らない女の悲鳴だった。