My important place【D.Gray-man】
第13章 夢現Ⅰ,
「中々去ってくれないね…」
「ユーくーん。いることはわかってるんだよー」
「………千里眼でも持ってるんじゃないかな、ティエドール元帥」
二階の廊下から下を見下ろしながら月城がぼやく。
その言葉には、なんとなく納得した。
あの人は外じゃまだマシだが、教団内じゃただの過保護親父だ。
俺には迷惑な存在でしかない。
「もう最悪、劣りとか使って一人だけでも脱出するとか。一人でも他支部に連絡取れれば、どうにかなるだろうし」
「どっちが劣りやるんだよ」
「うーん…確実に脱出するなら、私が劣りで──」
「却下だ」
想定内の言葉に遮るように言えば、目を瞬いて月城が俺を見上げる。
なんだよ。
「わざわざ捜し歩いた意味ねぇだろうが。易々と命差し出してんじゃねぇ」
「命って…死ぬ訳じゃないけど」
「このまま全員ゾンビ化すれば、同じことだろ」
ぱちぱちと何度も目を瞬いて、月城が珍しそうに俺を見る。
だから、なんなんだよ。
「…そっか。じゃあ、二人で助かる道を探そう」
不意に、そのマヌケ面が笑みで砕ける。
その表情に、一瞬目を止めてしまう自分がいた。
初めて月城が自分のことを俺に話した。
教団関係者の親がいたこと。
全てを過去形で話すそれは、もうこの世にその存在がいないことを示していたが…
純粋に興味は湧かなかった。
元々自分が他人に興味を持たない性格なのは、理解している。
だからそれは当たり前のことだった。
だけど、それはそこまでで。
『…ありがとう』
顔を俯かせて、小さな声で礼を口にした月城。
顔を伏せる一瞬、見えた表情。
少しだけ泣きそうな、はにかんだもの。
こいつのそういう顔を見たのは初めてだった。
こいつの親に興味なんてない。
…だがこいつ自身となれば違う。
"使徒を作る実験"
それがどういうもんかは知ってる。
ただ似た境遇だからって、特別な感情をそこに寄せるつもりはない。
傷の舐め合いなんて嫌いだ。
俺は俺で、月城は月城。
こいつが背負ったもんの重みは、こいつにしかわからないし。俺が抱えてるもんの重みは、俺にしかわからない。