My important place【D.Gray-man】
第12章 黒の教団壊滅事件Ⅴ
「母親はサポーターで…二人共、教団で働いてたんだけど」
神田の視線は感じるけど、相槌も何もない。
それはちょっと楽だった。
こういう話を誰かにしたことはないから、どんな反応をされるのか。
やっぱり、ちょっと怖いから。
「だから昔にイノセンスの、適性検査、みたいなものもしたから。あの子の気持ちが、よくわかった」
"実験"と口にするのは躊躇してしまって、やんわりと言葉を選んで口にする。
「多分、神田は言わないだろうけど。周りにその血筋のことは、黙ってて欲しいんだ」
私の母は実力のあるサポーターだったらしい。
そのことを知ったファインダーの仲間は、皆褒め称えてくれた。
母と同じような立派なファインダーになるだろう。
そう期待してくれた。
誰かに期待されるのは、素直に嬉しい。
でも我儘を言うなら…その期待は少しだけ重みに感じた。
重い話をするつもりはない。
私の生い立ちや生き方なんて話してもどうにもならない。
私はこんなに可哀想な人間なんです。
そう自分で口にする程、滑稽な姿はないから。
それにこれは過去のこと。
胸に穴を開けて悲しむ日々は、とっくの昔に飲み込んだ。
前に進んでいる気はしない。
でも後ろに下がる気もない。
その場に立ち止まって、大事なものを思い続けて。
私はこの黒の教団で立ち続けている。
「別に言わねぇよ」
僅かな沈黙を作った後、小さな声で返ってきたのはいつもと変わらない神田の声だった。
「興味ない」
端的にそれだけ。
いつものように切り捨てるような神田の言葉だ。
予想はしていた。
幾度とそういう言葉を吐かれたことはある。
なのに…あれ…なんだろう。
思ったより、きついかもしれない。
「…そっか」
つきん、つきんと、小さな痛みが胸に走る。
こんなにバッサリ切り捨てられたのは、あの墓地での任務以来かもしれない。
「俺には関係ない」
歪に巻かれた包帯の手をぐっと握る。
鈍いその痛みで、胸の痛みが薄れることを望んで。
確かに神田には関係ないことだ。
同じ教団で働いてるけど、私と神田の立場は違う。
イノセンスに選ばれた人と、選ばれなかった人。
この教団でその差はとてつもなく大きい。