My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
膝を抱く細い手首を覆う、黒く分厚い枷。
その細さに合ってはいないのだろう、隙間の空いた枷で覆われた皮膚は、擦れて皸(あかぎれ)のようなものができていた。
「そこ、痛そ」
「…?」
不意に手を伸ばす。
触れた手は小さくて、呆気なく握り込むことができた。
握った手を引き寄せれば、手首を繋がれた鎖がジャラリと音を立てる。
金属音に顔を僅かに顰める雪。
しかしティキは構うことなく、手枷の嵌められた手首を目の前に引き寄せた。
「ティキ? 何…」
「聞きたくなけりゃ聞かないようにすればいいんだよ」
「?」
「意識するから聞こえちまう。枷なんてないもんだと思えばいい」
「そんなこと…無理に決まって」
「そう?」
引き寄せた手枷を指にかけて引けば、皸が露わになる。
擦れて痛みを感じるのか、眉を寄せる雪の顔をちらりと伺って。にこりと笑うと、ティキは皸の跡を辿るように口付けた。
「っ!?…な、なん…っティキッ?」
「んー?」
「何して…っ」
「何って。…消毒?」
「なんで疑問系っ」
「だって本当に効果あるかどうかなんて知んねーもん」
ひた、と伸ばした舌が皸の跡を這う。
びくりと震えて身を退こうとする雪の腕をしっかりと握ったまま、殊更ゆっくりと舌を這わせた。
労わるように優しく、皸を舌で拭い舐め上げていく。
ちらりと目線だけ向ければ、こちらを凝視して固まっている雪の姿が。
その顔は暗い牢獄の中でもわかる程、確かに赤く色付いていた。
「…あんまそういう顔しない方がいいかも」
「は? な、なんで」
「言っただろ。俺弄り倒したいタイプだって」
皸から離れた唇が、細い腕を辿るようにキスを落とす。
「こんな姿でそんな顔されたら、色々やりたくなる」
「はっ? 色々って何──」
「あ、そこ聞く? SMプレイと」
「わーッ! なんでもない! 言わなくていい!」
途端に退く力が増す。
顔を真っ赤に逃げようとする雪に、敢えて力を抜いて促せば、予想していなかったのだろう。
「っ!?」
「あ。」
勢い余った体は後ろのシーツへと、ぼふっと背中から倒れた。