My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「いい趣味してんね、全く」
「っ」
足首から続く、太く長い鎖を手に取る。
鉄が擦れ合う金属音に、ぴくりと雪は反応を示したがそれだけ。
膝を抱いて座ったまま、顔も目も向けようとはしない。
そんな雪の姿を視界の隅に捉えつつ、ティキは注意深く枷を観察した。
枷部分にも鎖部分にも、何か術でもかかっているのか呪印のような文字が刻み付けられている。
(ノアの力を封じる為か?)
理由はわからなかったが、どうやらただの枷ではないらしい。
そのまま鎖の先を目で辿れば、狭い牢獄の隅に行き着く。
繋ぎ目などは見当たらず、しっかりと壁と溶接された鎖は簡単には破壊できそうにもなかった。
(ま、今の俺じゃ手の出しようもねぇんだけど)
此処は雪の潜在意識の中。
こうして手に取っている鎖の冷たさも重みも、雪の意識から造り上げられているものだ。
ティキが実際に手に取り、触れることはできない。
目で見て感じ取ることしか許されない鎖は、どこか禍々しくも見えた。
雪の意識も刷り込まれているものだ、それだけ彼女の心をも縛り付けているのだろう。
「…あんまり触らないで、それ」
「なんで?」
「音…聞いていたくない」
目を向けてくることはなく静かな声で制してくる。
そんな俯き加減の雪の表情は見えないが、鎖の金属音に不快さは感じているのだろう。
鎖から雪へと視線を移す。
足だけでなく両手首にも嵌められた鉄枷を目に、成程とティキは妙に納得した。
こんなにあちこち鎖で繋がれていれば、少し身動ぐだけで擦れ合い音を立てる。
自分が音を立てる以外には、何もない無音の牢獄。
耳障りに感じても仕方がない。