My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「今回のサード計画で彼が必要かと思い、私がレニー支部長に材料提供したまでです」
「材料提供…? アルマを物のように言うのはやめろ!」
「落ち着いてバクちゃんッ」
「そうですよバク支部長。今此処で声を荒げてどうなるというのです? 彼はセカンドの成り損ないですが、しっかりと新しい役割を担ってくれました。常人の肉体では耐え切れないAKUMAの卵核をも取り込み、見事サードの母胎となってくれた」
「母胎だと…ッなんてことを…!」
「バクちゃんッ!」
今にもルベリエに掴みかからんとするバクの腕を、椅子から身を乗り出したコムイが強く掴んで阻む。
ルベリエの言う通り。
今此処でどんなに彼を非難しようとも、それは既に起きてしまったこと。
そして目の前にはその実験の成果であるサードエクソシストがいる。
成果が出てしまっては、抗議を上げても上層部の考えは覆らない。
ルベリエもそれがわかっていて、全てを秘密裏に進め終えてから報告しに来たのだ。
なんとも姑息で卑怯なやり方だと顔は歪むが、反論の隙間は見当たらなかった。
「やれやれ…何故そうもアルマの肩を持とうとするのか。私には貴方の気持ちがよくわかりませんねぇ、バク支部長」
「ッ何を…」
「ご自分でも仰っていたでしょう。あの"惨劇"のことを。アルマ=カルマの手によって、ご自身の両親を惨殺されているというのに。肩を持つ意味がどこにあるというのです。レニー支部長は貴方のように取り乱しはしませんでしたよ」
「……」
淡々と静かに穏やかな声で、しかしゆっくりと相手の首を締め付けていくかのように責めていくルベリエの言葉。
レニーの名に反応を示したバクが彼女に目を向ければ、その視線は合わさることはなかった。
固く目を瞑り誰とも視線を交えようとしないレニー。
その姿はまるで周りの出来事の一切を、拒絶しているようにも見えた。
(レニー…)
まるで耐え忍ぶかのように。
彼女と長い付き合いのあるバクには、そう見えたのだ。