My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
元々神田の特異体質のお陰か、酒に溺れて悪酔いする姿などは見かけなかった。
寧ろ、全く酔えないと最初に渡したアルコール度数低めの酒は、苛立ち混じりに突き返された程。
そうして気付けば洋酒和酒様々な国の酒を勧めて、やがて行き着いたのがそれ。
ウイスキーやラム酒と並ぶ、アルコール度数の高いテキーラ。
その頃には酒の味もわかるようになっていた神田が、自ら好んだ味だったとも言える。
「リナリーちゃんに隠れて飲んではいたでしょうけど、最近はそれも回数少なめだったはずでしょう? 珍しいこともあるわねぇ」
「…テメェのその情報網はどっから来てんだよ…」
「それはヒ・ミ・ツ♡」
口元に握った拳を当てて乙女よろしく笑うジェリー。
そんなオカマを前にした神田の顔色は悪い。
すっかりテキーラ飲みが定着した数年前、神田が一人食堂で飲んでいたところを幼馴染であるリナリーに発見されて絡まれたことがある。
結果、興味本位でテキーラに手を出したリナリーを酔い潰してしまい、コムイに知られたら殺されると必死に介抱した。
それからはリナリーに隠れてこっそり飲むようになったが、それすらも最近は見かけなくなったというのに。
不思議そうに首を傾げるジェリーは、なんとなく察していた。
娯楽の一つでもある酒だが、神田が飲酒する根本の理由は別にある。
そこが満たされたから、一人飲みも減ったのだろう。
その理由はきっと、
(雪ちゃんなのよねぇ)
忘れていたいことより、憶えていたいことが増えたからだ。