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My important place【D.Gray-man】

第43章 羊の詩(うた).



「……」


 きゅっと唇を噛み締めて黙り込むリナリーの不安げな姿に、一度だけ目を向けた神田は眉間にくっきりと刻んでいた皺を少しだけ緩めた。

 リナリーの内面の強さは知っている。
 不安であっても、尚気丈に振舞おうとしているのは一目でわかった。

 確かに彼女の言う通り、苛立つ行き場のない思いを修練稽古でぶつけていたのは確かだ。
 幼い行動をしているのは自分の方なのかもしれない。


「…チッ」


 周りに聞こえないくらいの小さな舌打ちをして、タオルを引っ掴むと背を向ける。


「あ、神田…っ」

「休む。ついて来るな」


 リナリーの言う通り、一度体を休めようと従うことにはした。
 しかしそれ以上踏み込ませないのは、今の苛立ちをリナリーにさえもぶつけてしまいそうな気がしたから。


「でも…っ」

「お前こそ寝てねぇだろうが。不細工な面しやがって」

「ぶさ…!?」

「コムイに下手な心配かけんな。寝ろ」


 兄の名を出せば、大人しく彼女が押し黙るのは知っていた。
 案の定それ以上ついて来ない気配をそのまま残して、神田は足早に修練場を後にした。

 今は誰とも話したくない。
 それが雪関係のことであれば尚更。

 無数の汗粒を掻いた肌にへばり付く長髪を、鬱陶しく片手で振り払う。
 その際指先に触れたのは、長さの不規則な歪に千切れた朱色の髪紐。
 歪ながらもしっくりとくるのは、何度も使い慣れた物だからだ。

 これを身に付けていれば、恥ずかしそうにしながらも、しかし嬉しそうに見上げてくる彼女の姿が時々垣間見える。
 だから愛用していた。

 指先に触れた、微かな髪紐の感触。
 たったそれだけのことで頭の中を覆う雪の姿に、神田はもう一度だけ舌打ちをした。

 どんなに意識を別へと背けようとも、その存在は頭から離れてはくれないらしい。

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