My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「次」
苛々と気配が逆立つような声が催促する。
広い教団の修練場闘技広場。
「うし! じゃあ次はオレが──ぎゃんッ!?」
「次」
「よ、よぉーし! 今度は俺だァ! あぐッ!!!」
「次」
「ままま待ってオレ参加してなグぶぼッ!?」
「次」
「うっス! 今度こそ一本取らせて頂きまブぶふッ!!!」
「口より先に体動かせ。次ッ」
「待ってよ神田、もう皆──」
「るせェ。次!」
「もう! 次はいないんだって! 全員神田がのしちゃったんだからッ!」
高く積み上がったファインダーとエクソシストの屍の山。
その一番上に、今し方上段回し蹴りを入れられたチャオジーの屍が、宙を舞いどふんと落ちる。
途端にわらわらと崩れ落ちる瀕死な彼らを前に、鬼のように次の組み手を催促するは神田。
それを声を張り上げ止めたのは、幼馴染であるリナリーだった。
「立て続けに組み手し過ぎよ。何時間やってるの? 少し休んだ方が…」
「余計な世話だ」
普段はアレンやブックマンが相手にでもしない限り、涼しい顔で組んだ相手を薙ぎ倒していくことが多い神田。
しかし長時間訓練を行えば、流石に息も切れるし体力も落ちてくる。
乱れた息をつきながら、それでも目も合わせずぴしゃりと跳ね除ける神田の態度に、むっとリナリーの表情は歪んだ。
彼のその苛立ちの原因はわかっている。
伊達に幼馴染はしていない。
「(行き場のない感情はわかるけど…)…他人にぶつけちゃ駄目よ」
むっとした表情から、暗い哀しみのものへと変わる。
そんなリナリーもまた雪のことでショックを受けた者の一人。
コムイが雪の正体を伝えたのは、エクソシストと教団の上層部のみ。
それでも口頭だけの説明で、リナリーは雪の細かい様子を一切知らない。
知っている神田もアレンも口を閉ざしているから、何も知りようがなくて。無知なことは不安でしかなかった。