My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「"音"を聞く限り…その言葉に嘘は見受けられませんでした」
「…そうか」
コムイの問いに、耳にした雪の心音を告げるマリの表情は暗い。
彼の耳にもコムイの無線機を通じて、雪の言葉は全て伝わっていたはず。
本音を漏らした彼女の心への戸惑いか。
それとも彼女の正体への戸惑いか。
(多分…どっちもかな)
マリの顔色を伺いつつ、コムイは少しの罪悪感に駆られた。
仲間の心境を探るようなこと、彼の仲間思いな性格ではあまり向いていない。
複雑な心境なのは確かだろう。
「ありがとう、マリくん。協力してくれて」
「…神田に知らせるのですか」
「うん。そうだ、神田くんを司令室に呼んで来てもらえるかな? 事は急ぎだから──」
『その必要はありませんよ』
ジジ、と微かな回線が入り込む音。
ぴんと人差し指を立てるコムイの声を遮ったのは、その耳の無線機から届く声だった。
突如入り込んだ回線は、マリの通信ゴーレムと繋いでいたものとは別のもの。
しかし聞き覚えのある声に、コムイの動きがピタリと止まる。
「…室長?」
「………(…なんで)」
急に動きを止めたコムイに、その場にいた全員が不思議そうに目を止める。
しかしコムイだけは、表情を険しいものへと変えていた。
今何故、此処で彼の声がするのか。
『話は一部始終聞かせて頂きました。今すぐ司令室に戻りなさい、室長』
「…何故この無線機を……ルベリエ長官」
この場にいないはずの者が、回線を繋げられるはずなどないのに。
コムイの口から重々しく発せられたその名に、反応を示したのはラビとマリの二人だった。