My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
なんで。
なんで、いつも一番欲しい時にそれは私の掌をすり抜けていくんだろう。
なんで、いつも一番欲しいものは手に入らないんだろう。
私の両親も。
大切な人も。
私が弱いから?
小母さんの下でいつまでも縋らずに、さっさと教団に向かっていたなら。
ノアのことをいつまでも臆病に隠さずに、さっさと伝えていたなら。
そしたらこんなことにはならなかった?
今更そんなこと後悔しても、どうにもならないのに。
「……お願い…」
消え入りそうな声で、下げた頭を更に俯かせる。
こうして乞い縋ることしかできない。
私は今でも弱いまま。
視界は暗い石造りの床と、コムイ室長の足しか見えない。
その足は微動だにしていなかった。
…私の未来を守りたいって、この人は言ってくれたけど…それ以前に彼は教団の室長。
この黒の教団にいる団員全員の命を背負っている人だ。
私の我儘か、彼らを守る為の行いか。
天秤に掛ければどちらが重いかなんて、一目瞭然。
──でも譲れないの。
これだけは。
「…お願い…します…」
恐る恐るその場に膝をつく。
檻の中で音を発しているのは、床に擦れる鎖の音と私の小さな声だけ。
冷たい石の床に両手をついて、ごつりと額をそこに押し付けた。
「お願いします…一度でいいから…っ」
「…雪くん…」
「後はなんだって聞きます…っなんだってするっ室長の言う通りにしますから…ッ」
今の私にできることは、これしかない。
態度で示せって、室長は言った。
私のこの一つの我儘を聞いてくれるなら、どんな処遇だって受け入れるから。
「雪…やめ──」
「貴様が口を挟むことではない」
「っ」
暗い視界の中、耳に入り込んできたのはラビと厳しいブックマンの声。
ブックマンは傍観者になりきらなければいけないと、ラビは前に私に教えてくれた。
それでも尚、声をかけてくれる彼はやっぱり、根本は優しい性格なんだと思う。