My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「雪くん、どうかしたのかい。何か思い当たる節でも?」
「…ぇ……ぁ、いえ…」
顔色を伺うように尋ねてくるコムイ室長に、なんとか首を横に振る。
動揺してしまった。
なんだかアレンに見捨てられたような感覚がして。
誰だって自分の命が大事だ。
それが危険に曝されるくらいなら、嘘や我儘もつく。
でもアレンはそういう性格じゃない。
自分の身を犠牲にしてでも、エクソシストとして周りの人を救おうとする。
自分より他人を優先できる、優しい人。
自己犠牲の嫌いなリナリーが時に怒るくらいに、そういう慈善行為が好きじゃないユウに嫌われるくらいに。
確かに自己犠牲なんて、私もあまり好きじゃない。
本人はそれで満足かもしれないけれど、それによって周りが傷付くこともある。
身体的なものじゃなく精神的なものの傷。リナリーの心がそれだ。
彼女の心を引き裂いてまで己の身を犠牲にすることが、果たして良いことなのかと思えば、頷き兼ねる。
自己犠牲はその言葉通り、自己の選択。
それはある意味、一種の自己満足だ。
だけどアレンのその優しさは、彼の本質だから。
偽善じゃなく、アレン本人の性格そのものがそういう優しさでできている。
アレンと関わっていく中で、その純な優しさを感じることができたから…だから私も自然とアレンの傍では素で近くいられた気がする。
その優しさに、安心できていた。
アレンはそんな人。
だからこそ、信じられない思いとショックを受けた。
アレンに…私は、見限られたような。
そんな気がして。
「雪くん…大丈夫かい? 顔色が悪いようだけど…」
「…ぃぇ…大丈夫です」
動揺する気配が伝わってしまったのか。もう一度首を横に振ったけど、コムイ室長は難しい顔でじっと私を見続けていた。