• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第43章 羊の詩(うた).



「雪くん、どうかしたのかい。何か思い当たる節でも?」

「…ぇ……ぁ、いえ…」


 顔色を伺うように尋ねてくるコムイ室長に、なんとか首を横に振る。

 動揺してしまった。
 なんだかアレンに見捨てられたような感覚がして。

 誰だって自分の命が大事だ。
 それが危険に曝されるくらいなら、嘘や我儘もつく。

 でもアレンはそういう性格じゃない。
 自分の身を犠牲にしてでも、エクソシストとして周りの人を救おうとする。
 自分より他人を優先できる、優しい人。
 自己犠牲の嫌いなリナリーが時に怒るくらいに、そういう慈善行為が好きじゃないユウに嫌われるくらいに。

 確かに自己犠牲なんて、私もあまり好きじゃない。
 本人はそれで満足かもしれないけれど、それによって周りが傷付くこともある。
 身体的なものじゃなく精神的なものの傷。リナリーの心がそれだ。
 彼女の心を引き裂いてまで己の身を犠牲にすることが、果たして良いことなのかと思えば、頷き兼ねる。

 自己犠牲はその言葉通り、自己の選択。
 それはある意味、一種の自己満足だ。

 だけどアレンのその優しさは、彼の本質だから。
 偽善じゃなく、アレン本人の性格そのものがそういう優しさでできている。
 アレンと関わっていく中で、その純な優しさを感じることができたから…だから私も自然とアレンの傍では素で近くいられた気がする。
 その優しさに、安心できていた。

 アレンはそんな人。
 だからこそ、信じられない思いとショックを受けた。

 アレンに…私は、見限られたような。
 そんな気がして。


「雪くん…大丈夫かい? 顔色が悪いようだけど…」

「…ぃぇ…大丈夫です」


 動揺する気配が伝わってしまったのか。もう一度首を横に振ったけど、コムイ室長は難しい顔でじっと私を見続けていた。

/ 2637ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp