My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
大人しいオリーブ色の、足元まで隠すふんわりとしたスカート姿。
クリノリン調の婦人服。
それを身に纏う女性は、真っ黒な髪をきちんと一つにまとめていて、その下の顔は端整なもの。
だけど目の下には暗く隈ができていて、不健康そうにも見えた。
『何それ』
見下ろしていた私の口から勝手に出てくる返答。
呆れたような、ちょっと素っ気無い声。
…あれ?
これ、私の声じゃない。
幼さの残る少年のような声。
なんだろう。
なんだかあの「オハヨウ」と告げてきた声に、少しだけ…似ているような、気がする。
でも、似ているけど…違うような気も。
なんでだろう。
『お話してるように見えたのだもの。こんにちは、"コーネリア"』
枯れ木の幹に額を寄せて、囁きかけるように女性が声をかける。
それはまるでその樹木に話しかけているようにも見えた。
…コーネリア?
それって確か…植物の名前、だったような。
この枯れ木の名前なのかな。
自分が座っている枝は歪に分かれて太く、枯れているのに立派な樹木だった。
振り返った視界の隅には大きな屋敷のようなものも見える。
この広い麦畑を含めた敷地が、あの屋敷のものなら…この樹木も屋敷のシンボルツリーのようなものかな。
『あら、サイラスは? 一緒じゃなかったの?』
『叔父さまなら、あの変な色した煙のとこにいるよ』
ふと樹木から顔を上げた女性が、思い出したように話しかけてくる。
サイラス?
知らない名前だ。
黄金色の麦畑の向こうから、微かに煙が上がっているのが見える。
其処に私…ううん、私と同じ体を共有している誰かが見つめる。
其処にそのサイラスという人はいるんだろう。
『ねぇ母さま。あんな変人をキャンベル家の当主にしてホントにいいの?』
『変人はキャンベルの遺伝なのよ~。貴方だってホラ! 風と話してたじゃない』
『……』
あ。
今、この体の持ち主うんざりしたな。
別に風と話してたから此処に座ってた訳じゃなさそうだし。
母様と呼ぶなら、この人物と女性は血縁者ということになる。
あっさりと笑って返す女性もまた、少し変わり者のような気がした。