My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
此処で自分の処分が決まるまで、待ち続けるしかないのか。
命が絶たれるその時まで、此処に閉じ込められるのか。
そもそもあれからどれくらい時間は経ったんだろう。
司令室を後にして、枷をはめられ、檻に入れられた。
それからどれくらい日数は経ったのか。
長い時は過ぎていないけれど…短くもない。
正確な感覚は、時計も太陽光もないからわからない。
所持品は全て取られてしまった。
考え出すと不安が襲って、ついベッドから立ち上がっていた。
狭い部屋の壁まで歩く。素足にはめられた鉄の足枷が冷たく、ジャラリと擦れる。
ぺたりと触れた石壁は硬く、分厚いものだとわかる。その壁に沿って手を這わせながら進む。
繋ぎ目なんてものは見つからない。
そもそもそんなものがあっても此処から出られるの?
此処から自力で脱獄なんて、私にはそんな力なんてない。
…ノアの力だって…自分で操れてるものじゃない。勝手に体が反応しただけだ。
「オハヨウ」と語りかけてくる声に──
「……」
…そういえば。
あの時聞こえたあの声は…誰のものだったんだろう。
同時に垣間見えた景色。
あれは確か…一面金色(こんじき)の世界だった。
目を瞑る。
あの時の記憶を引っ張り出すように、真っ暗な視界の闇に景色を浮かび上がらせる。
目に優しい温かな黄金色の波。
風にさわさわと揺れて、柔らかい音を立てていた。
あれは──…視界一面を覆う程の麦畑だった。
さわさわと優しい風が頬を撫でていく。
優しいけれど、少し寂しい風。
落ちていく茜色の夕日がそう思わせるのか。
一本だけ空に向かって聳え伸びている、大きな枯れ木の樹木。
その太い枝に腰を下ろして、黄金色の世界を眼下に目を瞑る。
感じるのは哀愁の残る優しい風と、麦の匂い。
ゆっくりと沈みゆく夕日は体を温かく照らしているのに、何故か胸の奥の奥がちりちりと焼けるような感覚がする。
ちりりと焼けて。
喉奥が張り付く。
…ああ、
ノド、乾いたなぁ
『風はなんて言ってるの?』
知らない声がした。
木の枝に座ったまま振り返れば、幹の根元にその女性(ひと)は立っていた。