My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
『いい風ね…』
『……』
視界一面の麦畑を瞳に映して、薄らと微笑む女性。
その顔を見下ろすこの体の持ち主…多分、歳も幼い少年。
その子の気持ちが私の中に流れ込んでくるように、自然と思いがわかった。
悲しんでる。
母様の不健康な顔を見て、ずっと看病してたからって。
彼女の身を案じてる。
…看病?
『…母さま』
『なーに?』
『マナは大人になれないの?』
マナ?
あれ…なんだか聞いたことのある名前。
どこで、だったっけ。
『ベネット達が話してた。マナが今度こそ起きないんじゃないかって……だって今日でもう一ヶ月だよ…』
"マナ"
その名が気になったけど、それ以上に少年の感情が私の意識を染め上げた。
ぽつりぽつりと、泣きそうな声で囁かれる言葉からも伝わってくる。
深い深い哀しみ。
この少年にとって"マナ"はとても大切な存在なんだ。
看病っていうのも、きっとそのマナのことなんだろう。
病気? 怪我?
そこまではわからない。
『マナは──』
『ネア』
そんな儚い少年の声を優しく遮る女性。
名前だ。
…もしかしてこの少年の名前?
『『ばぁ♡』』
名を呼ばれ目を向けた少年が見たもの。
それは無邪気に笑う母である女性が、自らのスカートを少し託し上げている姿だった。
そしてその下からひょこりと小さな顔を覗かせているのは、癖毛黒髪の幼い少年。
二人して無邪気に、悪戯が成功したかのように笑っている。
驚き。それから一気に塗り換わる少年の心。
哀しみから喜びへ。
それは目に見えなくとも色鮮やかな移ろいだった。
『ネアっ』
『起きたのかッ? マナ…!』
ふわっと体が浮く。
違う、少年が樹木から飛び降りたんだ。
にへら、と無邪気に笑う少年──マナに向かって。
そんな少年に、両手を広げて迎え入れるように笑うマナ。
茜色の夕日に照らされる無邪気な笑顔は、儚く眩しいものだった。
〝マナ〟〝ネア〟
知らないけど、知っているような名前。
どこか似ている二つの名前。
もしかして…兄弟、だったり
するのかな──
ガチャン、
はっとした。