My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
夢の中で、優しく語りかけてくれていたティエドール元帥。
『君達の進む道は先に幾つだって張り巡らされてる。いくらだって広がってる。決して一つだけじゃない』
その言葉は忘れたことがなかった。
初めて聞いた言葉だったから。
ずっと私の心の中にしまってあったもの。
でも今は、その言葉が刃のように感じる。
私はこんな道を望んだ訳じゃないのに。
幾つだって道は張り巡らされてなんかいなかった。
進む道は決まってた。
夢はお金なんかなくたって、見られるなんて。
「……嘘だ」
そんなの。
それこそ夢のまた夢。
現実には決してならない。
『世界ってのは思ってるよりもずっと広いもんだ。見えていない所も沢山ある』
──そういえば。
ティエドール元帥と似たようなことを言った人が、いたような。
そんな気がする。
『角度や考えを少し変えるだけで、今までのもんが全く違って目に映ることもある』
誰の言葉だったっけ…。
落ち着いていて、大人びた声。
自分の為に生きろって、そう言ってくれた。
「……」
ベッドの隅に膝を抱いて座り込んだまま、辺りを見渡す。
暗闇に慣れた目は、部屋の内装をぼんやりとだけど映し出した。
窓はない。出入口は重たい鉄の扉一つだけ。
鉄の錆びた臭い。
ぴちゃん、と水が滴るような音が静寂に木霊する。
それは取り付けられた部屋の隅の、古びた洗面所から。
その隣には個室トイレも付いてある。
つい最近までパリ中央警察署の独房に入れられていたのに…あそこよりは物も揃っているし不便はない。
ぎゅうぎゅうに詰められた男性囚人達に潰される心配もないのに。
「…っ」
寒気がした。
此処からは本当に逃げ出せない。
逃げ道が見つけられない。
先の道が絶たれた恐怖。
──どうしよう。