My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
司令室でノアだと認めた後、まともに立ち続けていられない私に宛がわれた部屋が、此処だった。
……今更。
コムイ室長自身の口から、はっきりと勾留すると言われたんだから。覚悟はしてた。
昔に、似たような部屋に押し込められたこともある。
同じ教団の者達の手で。
今更だ。
全部、今更。
知ってる。
その時の孤独も恐怖も焦燥感も。
幼い頃に押し付けられたあの感情を、薄れはしても忘れたことはない。
きっと私の体のどこかに残り続けるもの。
完全に消し去るなんて不可能なもの。
それでも人が立ち上がって前に進めるのは、それ以上の感情を抱えられた時だ。
…私の亡き両親は…私を立たせてはくれたけど、前に進めさせてはくれなかった。
手の届かない存在は、強く誰かを焦がれる思いは教えてくれたけど、胸に空いた穴を塞いではくれなかった。
私が前に進めたのは…独りじゃなかったから。
気持ちを向けるだけじゃなくて、同じ気持ちを向けてくれて。
一人抱くものじゃなくて、同じものを抱いて共有してくれて。
与えて、与えられて。
私の中に知らなかった感情を吹き込んで、満たしてくれた。
傍で寄り添って、温かさを分け与えてくれた。
私に踏み出す勇気をくれたのは、愛を教えてくれた人。
「……」
のそりと、小さなベッドから身を起こす。
身動きする度に擦れて音を立てる鎖の音が、耳障りで仕方ない。
現実を突き付けてくるようで。
わかってるのに思い出す。考えてしまう。
夢にも見ていた、幼い頃の記憶。
無意識に求めてたりしたのかな。
今更…もう、思い馳せても仕方ないことなのに。
現実を思い出して胸が痛むだけだ。
なのに何度も考えてしまう。
その姿を思い出す。
まるで私の心の奥底が、求めているみたいだ。
あの人を。
その度に泣きたくなるのに。
「…っ」
この感情の止め方を、誰かに教えて欲しい。