My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「──…」
意識が浮上する。
ゆっくりと開いた瞼の先。
映ったのは、まだ夢の中かと思えるような真っ暗な世界だった。
だけど何もない闇とは違う。
ぼうっと見つめていれば、やがて天井の輪郭が段々と掴めてくる。
硬そうな石造りの狭い天井。
寝惚けた目元を擦ろうと腕を上げれば、ずしりと重い感覚。
ジャラ、と擦れて立てる鉄の音に、一気に意識が冴えた。
…ああ、そうだ。
重い腕を上げて、目元を両手で覆う。
手首にはめられた冷たく硬い鉄の塊が頬に当たって、否応なしに主張してくる。
私の、枷。
「……っ」
ぐ、と歯を食い縛る。
両手で塞いだ視界は真っ暗。
何も見えない。
でも部屋の内装は知ってる。
嫌という程目に焼き付けた。
暗く狭い石造りの冷たい部屋。
あるのは簡素なベッドと机と椅子。
そして鉄格子の小窓が付いた分厚い鉄の扉。
窓はないから、部屋の灯りは置かれた燭台一つだけ。
それも消してしまえば真っ暗な世界となる。
少し錆びた鉄の臭いが、つんと湿って鼻を突く。
その臭いは、両手首と片足に取り付けられた重い鉄の塊から。
真っ黒な鉄の枷。
両手首の枷は鎖で繋がれている。
日常生活を送る上で支障はないけれど、両腕を大きく広げることはままならない。
足枷の鎖は部屋を行き来できるけれど、頑丈な石壁に繋がれているから部屋を出ることは許されない。
動きを制限されるもの。
ずしりと重たいのは、その鉄の重さだけじゃない。
鉄の鎖に、枷に、至る所に鴉の呪符印が刻まれているから。
これは私を…ノアを縛る為に、作られた枷だ。
そして此処は──…私を閉じ込める為の、檻。