My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
聞いたことのないようで、聞いたことのある声。
見たこともないのに、妙に懐かしさを感じる光景。
あの時起きたノア化は、ジャスデビのノアメモリーを流し込まれた時と同じものだ。
しかしあの場にジャスデビなどいなかった。
他のノアだっていなかったはずだ。
なのに何故急にノア化したのか。
「……」
突如生まれた疑問に、雪は咄嗟に頭を回転させた。
しかし答えは出てこない。
「確認できたね」
コムイの言葉に、はっと意識が目の前に戻される。
口を閉じたティムキャンピーに、目の前の映像が消える。
雪の瞳に映ったのは、映像の後ろにあったコムイの顔。
「この映像に映っているのは、雪くん自身で間違いないね?」
「………はい」
「それじゃあ、この映像の姿は…僕やアレンくん達の知る情報が正しければ、」
コムイの目を見返すことはできなくて、雪はその口元を見つめ続けた。
次に紡がれる言葉など、わかりきっていたことだけれど。
「ノアのものだ」
コムイのそれは、問いかけではなかった。
はっきりと迷いなく告げられた名。
予想はしていたことだ。
なのに何故こうもはっきりと突き付けられると、身は竦むのだろう。
「それで間違いはないかい」
先の回答を促される。
YESと言えばノアだということを認めることになる。
となると教団の敵と見做されて殺されるのか。
NOと言えば嘘を付くことになる。
となると反逆罪と見做されて殺されるのか。
確固たる証拠は既にコムイの手の中だ。
今更言い訳なんて通用しない。
向かう先はどちらも一つ。
(…自分の為に生きろ、なんて)
道が定められてしまっていては、自由に歩くこともできない。
そもそも自分の為に生きる道が見つからない。
目の前には一本だけ続く道。
口を開く。
言葉を紡ぐ前に微かな唇の震えを感じ取って、なんて弱い自分なのだろうと雪は拳を握り締めた。
答えなんて一つだ。
「……はい」
それはか細い悲鳴のような声だった。