My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「映像は見せて貰ったけれど、雪くん自身の口から聞くまではどう対処もできない。だからきちんと答えて欲しい」
対処とはどのようなものなのか。
コムイの言う正体が教団の受け入れられないものだとしたら、自分はどんな処罰を受けるのか。
ドクリドクリと、心臓の音が外にまで聞こえるかのようだった。
足元の都鼠色の絨毯に雪の視線が落ちる。
「……」
怖いと思った。
神田への後悔やアレン達への後ろめたさなどからくる恐怖ではなく、ただ純粋に怖いと思った。
死への恐怖。
生への切望。
ファインダーの道を選んだ時点で、死も覚悟して生きていたはずなのに。
なんの理由もなくとも生きたいと縋る。
ただただ死から逃げ出そうとする。
(……まだ、あったんだ)
自分にもそんな人らしい感情が。
あまりに意外過ぎて、他人事のように頭の隅でつい感心してしまった。
──生きろよ、自分の為に
(…ぁ)
そういえば、そんなことを誰かに言われた。
微かに、でも確かに最後に拾うことができた彼の言葉。
その場にあるのは自分の為の道なのだからと。弱い心を受け入れて貰って、そんな弱さが好きだと言ってくれた。
「……」
自分の為に生きる。
当たり前に人が生きる上で持つ感情だ。
しかし今の自分に、それができるのか。
わからない。
(…どうしたら…いい、の)
拳を握る。
縋りたいと思った。
どんな選択をしても間違いはないと言ってくれたあの人に。
話の内容は所々引っ掛かるように思い出せるのに、名前が思い出せない。
優しく触れた温かい手の感触は思い出せるのに、顔が思い出せない。
「…っ」
朧気な記憶に、歯痒さを感じた。