My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「……」
沈黙。
叱責されるのだろうか。
何故黙っていたのかと、自分達を騙していたのかと。
そう問われるのだろうか。
「雪くん」
名前を呼ばれても顔を上げることはできなかった。
「任務お疲れ様」
なのに降ってきた言葉は、いつものコムイと何も変わらないもの。
耳を疑う。
顔を上げれば、両肘を机につき口元に組んだ両手を寄せた、見慣れたコムイの姿。
「色々と少し手荒になっちゃったみたいだね。許して欲しい」
申し訳なさそうに、少しだけ下がる眼鏡の上の眉。
その顔も、声も、雰囲気も、いつも自分に向けていたものと何も変わらない。
其処には長年で雪が知り得た、室長の器を持つ男性がいた。
「体の調子はどうだい?」
「………動かす、分には…支障、ありません」
予想外の問いかけに反応が遅れてはしまったが、まるで普段通りのコムイに気付けばそう応えていた。
「そっか。ならよかった」
うんと頷いて、にこりと笑う。
そんなコムイの姿は、以前と変わらない心で自分を見ていてくれているようで、胸の奥が切なくなった。
今まで幾度となくフランクなコムイの性格に救われると思ったことはあったが、この時程そう強く感じたことはなかった。
つい目の前の存在に縋りたくなる。
咄嗟に耐えるように、雪は唇を噛み締め閉じた。
「アレンくん達から、君の一連の事態は聞いたよ。ティムの記録映像も見せてもらった。…色々と聞きたいことはあるけれど…最初に確かめなきゃならないことは一つだけだ」
ティムキャンピーの金色のボディを指先で軽く撫でて、一息つく。
そうして静かにゴーレムから目の前の雪へと視線が移り変わった時、コムイの表情は柔らかいものではなくなっていた。
「君の正体について」
ドクリと、心臓が嫌な音を立てた。